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戦略が失敗する本当の理由②──「やめる設計」が存在しない

新しい戦略が発表された日、現場の仕事はひとつも減りません。

重点施策が増えます。 KPIが増えます。 会議が増えます。

しかし、時間も人も増えていません。

戦略が失敗する本当の理由①──「翻訳機能」が存在しないで述べた通り、戦略が動かない理由は「実行力不足」ではありません。抽象と具体をつなぐ”翻訳機能”が欠けているからです。

では、その翻訳工程において、最も欠落しやすいものは何でしょうか。

それが、「やめる設計」です。

戦略とは、やることを決めることではありません。やめる順番を決めることです。

戦略は”足し算”として誤解されている

多くの組織で、戦略は拡張として語られます。

新規市場への参入。新商品の投入。ブランド強化。DX推進。

それ自体は間違っていません。 問題は、それが常に”追加”として扱われることです。

新しい取り組みは評価されやすく、「何かを始めた」という事実は、前進の証明になります。

一方で、既存業務は当然のように残ります。

会議時間は増えません。人の集中力は有限です。業務の総量は減りません。

足し算の戦略は、組織の時間と注意力を静かに圧迫します。

そして現場は、限られた資源の中で「何とか回す」方向に調整を始めます。それが、戦略が”形だけ”実行されたように見える瞬間です。

再配分なき戦略は、実装されない

戦略とは、本来、資源配分の意思決定です。

資源とは何か。人員。予算。会議時間。そして、注意力です。

どこに集中させ、どこから引き上げるのか。

この再配分が明示されていない戦略は、抽象のままで止まります。

再配分には必ず、「止める」という行為が伴います。

あるプロジェクトを縮小する。あるレポートを廃止する。ある会議をやめる。

それを決めない限り、新しい施策は既存業務の上に積み重なるだけです。

抽象を具体に翻訳するとは、「何を止めるか」を明示することです。

それが示されない限り、現場は自己判断で優先順位をつけるしかありません。そしてその判断は、必ず部分最適に向かいます。

なぜ経営者は「やめる」を決められないのか

では、なぜ「やめる設計」は欠落するのでしょうか。

第一に、やめることは過去の意思決定の修正を意味します。

過去に力を入れてきた施策を停止することは、それが最適ではなかった可能性を認めることでもあります。

第二に、停止は短期的な数字を悪化させる可能性があります。

施策を止めれば、KPIは一時的に落ちます。説明責任が発生します。

第三に、忙しさは安心を生みます。

会議があり、施策が動き、タスクが増える。それは「動いている」という実感を与えます。停止は、その実感を奪います。

やめられないのは、勇気がないからではありません。やめる決断を支える構造が存在しないからです。

停止の基準がない。優先順位が言語化されていない。評価制度と連動していない。

その状態で「止めろ」と言われれば、誰もが躊躇するのは当然です。

だから戦略は増え続けます。そして組織は、集中力を失います。

やめる設計とは何か

やめる設計とは、単なる業務削減ではありません。

それは「優先順位の可視化」です。

戦略に本気で取り組むのであれば、同時に、停止順位を明文化しなければなりません。

何を最優先するのか。そして、それ以外の何を止めるのか。この二つは、常にセットです。

やめる設計には、いくつかの前提があります。

停止順位を言語化する

「重要度が低いものからやめる」では曖昧すぎます。

来四半期で停止する会議を三つ決める。廃止するレポートを明示する。

具体の対象を、固有名詞で挙げる。ここまで踏み込まなければ、再配分は起きません。

停止に期限を設ける

「いつか整理する」は整理されません。

停止日は、戦略と同時に決めます。開始日と同じくらい、終了日を重く扱います。

停止を評価制度に組み込む

やめることが評価されない組織では、誰も止めません。

停止は「怠慢」ではありません。資源の再配置です。

ここが制度に接続されて初めて、翻訳機能は完成します。

やめる設計が明文化された瞬間、戦略は初めて現場に届きます。

なぜならそれは、「何をやるか」ではなく、「何をやらなくていいか」を示すからです。

戦略は拡張ではありません。再配分です。

再配分とは、停止です。

停止を設計できない限り、戦略は動きません。

それは実行力の問題ではありません。構造の問題です。


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新しい施策ばかりが増えて現場が疲弊している、やめる基準が曖昧なままになっている。 そのような状況から、戦略の翻訳機能を一緒に設計いたします。

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