なぜ、組織には「翻訳機能」が実装されないのか?
前回は、なぜ優秀な社員ほど誤解するのか(現象編)について話しました。今回はその「原因」の話です。
原因はシンプルです。組織図のどこにも”翻訳する役割”が存在していない。
では、ここで次の疑問が浮かびます。
翻訳が必要なのは分かった。それなら、なぜ多くの組織にはその機能がないのか?
今回はこの問いに、感情論ではなく構造で答えます。
CONTENTS
翻訳は「仕事として見えない」
翻訳という仕事の最大の特徴は、機能すればするほど「何も起きない」ことです。
- 誤解が生まれない
- 認識齟齬による手戻りがない
- 無駄な会議が増えない
つまり、成果はすべて「未然防止」です。
組織の評価制度は、基本的に加点方式です。売上、数字、達成率、成果物。
一方、翻訳は減点方式でしか測れません。
- 問題が起きなかった
- トラブルが発生しなかった
これは評価として非常に扱いづらい。結果、「誰がやっても同じ」「なくても回っている」と誤認されます。
ここで、翻訳は最初のハードルにぶつかります。仕事として”見えない”のです。
翻訳は「責任だけが重い」
次に、役割構造の問題があります。
翻訳者は、必然的に両側の情報を扱います。
- 経営側の意図・背景・優先順位
- 現場側の制約・文脈・感覚
この中間に立つことで、次の現象が起きやすくなります。
- 経営側から見ると「そんな言い方はしていない」
- 現場側から見ると「都合よく解釈している」
重要なのは、ここでの問題が人格や能力ではなく、ポジションの構造だという点です。
翻訳者は、
- 決定権を持たない
- 権限も限定的
- それでも誤解の責任だけが集中する
結果として、「誰もやりたがらない役割」になります。
これは「かわいそう」という話ではありません。合理的に見て、組織内で引き受けるインセンティブがないという事実です。
社長は「自分が翻訳できている」と思っている
もう一つ、構造的に避けられない問題があります。
それは、当事者は自分を翻訳者だと誤認しやすいという点です。
社長はこう考えます。
- ちゃんと説明している
- 何度も話している
- 伝えたつもりだ
しかし、実際に省略されているのは、
- 判断に至った背景
- 比較検討した選択肢
- 優先順位の理由
これらは、社長の頭の中では「自明」だからです。
翻訳とは、「分かっている人が、丁寧に話すこと」ではありません。
分かっていない人が、どこでつまずくかを前提に再構成することです。
当事者である社長が、この視点を完全に持つのは構造上困難です。
優秀な社員ほど、翻訳者になれない
ここで多くの組織が、別の誤解をします。
「優秀な社員に任せればいいのでは?」
結論から言うと、優秀さと翻訳能力は別物です。
優秀な社員は、
- 理解が早い
- 行間を補完できる
- 抽象的な指示でも動ける
だからこそ、
- なぜ他人が分からないのか分からない
- 説明を端折ってしまう
- 「これくらい分かるでしょ」が口癖になる
翻訳に必要なのは、理解力ではありません。
つまずきやすいポイントを、先回りして想像できる力です。
これは知性とは別のスキルであり、経験と視点の訓練が必要になります。
翻訳が「善意」に依存した瞬間、失敗は確定する
多くの組織では、最終的にこうなります。
- 気づいた人が補足する
- 忙しい誰かがついでにやる
- 場当たり的に調整する
一見、機能しているように見えますが、これはすべて善意による応急処置です。
善意には、致命的な欠陥があります。
- 忙しくなると消える
- 人が変わると引き継がれない
- 再現性がない
翻訳が「役割」ではなく「頑張り」になった瞬間、その組織では恒常的な誤解が発生し続けます。
翻訳機能が存在しないのは、怠慢ではない
ここまで見てきた通り、翻訳機能は組織が後回しにする条件をすべて満たしています。
- 見えない
- 評価できない
- 責任が重い
- 誰でもできそうに見える
- 善意に依存しがち
だから、多くの会社に存在しません。
これは経営者の怠慢でも、社員の能力不足でもありません。構造的に、そうなるようにできているのです。
次回予告
では、ここまで読んでこう思った方もいるはずです。
「もう社内でどうにかするのは無理なのでは?」
次回は、翻訳機能をどうやって”実装”するのか、その構造を分解します。
個人の頑張りではなく、感情論でもなく、設計の話をします。
続きは、次回で。
御社の「翻訳機能」の状態について、まずは整理してみませんか。90分で現状を診断いたします。