COLUMNコラム記事

なぜ優秀な社員ほど、社長の想いを「誤解」するのか?

前回は、社長の原体験がエンジンになる話をしました。今回はその続きです。

「能力は高い。やる気もある。それなのに、なぜか話が噛み合わない」

経営者と話していると、この悩みは驚くほど頻繁に出てきます。

理念も伝えた。方向性も示した。それでも、現場の判断や動きを見ると、どこかズレている。

そして多くの場合、このズレは「社員の理解力が足りない」「もっと当事者意識を持ってほしい」という言葉で片づけられます。

ですが、ここでははっきり断言します。

これは、社員の能力や姿勢の問題ではありません。構造的に起きる「誤解の現象」です。

しかも厄介なことに、この誤解は「優秀な社員」であるほど起きやすい。

この話の対象について

ここで扱うのは、いわゆる「問題社員」ではありません。

  • 指示待ちではない
  • 自分で考えて動ける
  • 会社を良くしたいと思っている
  • 社長から見ても「期待している人材」

そうした優秀な社員が対象です。

つまり、「能力が低いから伝わらない」「価値観が合っていないからズレる」という話ではありません。

問題はもっと別のところにあります。それは、社長と社員が、同じ言葉を使いながら、違う世界を見ているという構造です。

この前提を押さえない限り、どれだけ言葉を尽くしても、どれだけ熱量を上げても、誤解は繰り返されます。

現象①:社長は「背景」を見ているが、社員は「指示」しか見ていない

社長が語る言葉には、必ず背景があります。

  • なぜ今それを言っているのか
  • どんな過去の失敗や成功があるのか
  • 数年後、会社をどこへ連れていきたいのか

社長はこれらを同時に見ながら話しています。

一方で、社員が受け取るのは、多くの場合「今やるべきこと」だけです。

社長の頭の中では「この判断は、3年後の布石」であっても、社員の頭の中では「つまり、今日何をすればいいか」に自動変換されます。

ここに、最初のズレが生まれます。

これは、社員が浅いからではありません。現場で成果を出すために、視野を意図的に絞っているからです。

優秀な社員ほど、「背景」よりも「実行可能な指示」を優先して拾います。その結果、社長が見ている全体像は、最初から共有されません。

現象②:優秀な社員ほど「良かれと思って」補完してしまう

もう一つ、見落とされがちな現象があります。

それは、社員が”質問せずに補完する”という行動です。

優秀な社員ほど、こう考えます。

  • いちいち聞くのは非効率だ
  • たぶん、こういう意図だろう
  • 自分なりに解釈して進めた方が早い

この判断自体は、現場では正しいことが多い。

問題は、その補完が、社長の意図と一致しているかどうかを確認する回路が存在しないという点です。

結果として、

  • 社長は「ちゃんと伝えたつもり」
  • 社員は「ちゃんと理解したつもり」

という、静かなすれ違いが起きます。

誰もサボっていない。誰も手を抜いていない。むしろ、双方とも誠実です。

だからこそ、このズレは長期間放置されやすい。

現象③:社長の「戦略」が、現場で「戦術」に勝手に矮小化される

最も深刻なのが、この現象です。

社長が語るのは、基本的に戦略(Why / What)です。

  • どの市場で戦うのか
  • 何を強みにするのか
  • どんな会社でありたいのか

一方、社員が日々向き合っているのは戦術(How)です。

  • 何を作るか
  • どう改善するか
  • どう数字を達成するか

この違いがある状態で言葉が渡されると、社長の戦略は、現場で次のように変換されます。

社長:「顧客体験を変えたい」
社員:「じゃあ、クレームを減らそう」

社長:「業界の常識を疑おう」
社員:「今の業務フローを少し改善しよう」

ここで起きているのは、誤解というより縮小です。

戦略という”大きな問い”が、現場で扱いやすい”小さな答え”にダウンサイズされている。

社員は前に進んでいます。実行もしています。しかし、社長が見ている地平には、届いていない。

この現象が続くと、社長は「話が通じない」と感じ、社員は「ちゃんとやっているのに評価されない」と感じ始めます。

よくある誤解:「もっと熱量を上げれば伝わる」は、ほぼ間違い

ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。

  • もっと想いを語ればいいのではないか
  • 社長がもっと現場に降りればいいのではないか
  • 社員教育が足りないのではないか

ですが、これらはすべて論点がズレています。

なぜなら、今回見てきた現象は熱量・努力・能力の問題ではないからです。

  • 社長は、十分に考え、十分に語っている
  • 社員は、誠実に受け取り、真面目に実行している

それでもズレる。

これは「伝え方が下手」なのでも「聞き手のレベルが低い」わけでもありません。

社長の頭の中にある”意味”が、そのまま現場に届く前提自体が、そもそも成立していないという構造の問題です。

言い換えると、この組織には最初から翻訳する人がいない。

まとめ:社員も、社長も悪くない。ただ「翻訳者」がいないだけ

この記事で整理したのは、たった一つの事実です。

社長の言葉は、そのままでは現場では使えない。

これは能力の否定ではありません。役割の違いが生む、必然的な断絶です。

  • 社長は「意味・背景・戦略」を語る
  • 現場は「判断・行動・戦術」を必要とする

この間には、必ず翻訳が必要になります。

しかし多くの組織では、この翻訳を「社長本人」か「現場の自助努力」に任せています。

結果として起きるのが、優秀な社員による、善意の誤解。そして、静かに積み重なるズレです。

社員も社長も、誰も間違っていない。ただ、組織図のどこにも「翻訳者」がいないだけ。


次回は、「では、その翻訳機能とは何なのか」「なぜ放置されやすいのか」この構造そのものを分解していきます。

問題が人ではなく構造にあるなら、向き合うべきものも、感情ではなく設計のはずです。


御社の「翻訳機能」の状態について、まずは整理してみませんか。90分で現状を診断いたします。

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