社長の「原体験」は、組織を動かすエンジンだ。なぜその熱量は、現場に届かないのか?
経営者インタビューをしていると、毎回のように思うことがあります。 社長本人から聞く「創業の話」は、驚くほど生々しく、切実で、熱を持っているのに、現場レベルでは、その話がほとんど共有されていないケースが多い、ということです。
「最初は本当にお金がなくて」「あのときの悔しさが今も忘れられない」「もう二度と、ああいう思いはしたくない」。 そうした原体験は、今の事業や意思決定と確実につながっているはずなのに、社員に聞くと返ってくるのは、「理念は知っています」「パーパスは壁に貼ってあります」という言葉だったりします。
不思議だな、と思ってきました。 社長が何を目指しているかは語られているのに、なぜそのスピードで走っているのかは、ほとんど語られていない。 その結果、現場には方向性ではなく、プレッシャーや違和感だけが伝わっているように見えることがあります。
この違和感の正体は何なのか。 取材を重ねる中で、私はこう考えるようになりました。 経営者の原体験は、経営理念とは別の場所で、すでに組織を動かしている。 それは「思想」ではなく、もっと物理的で、もっと人間臭い。例えばエンジンのようなものではないか、と。
※言葉の価値化については COLUMN「ビジネスの資産となる言葉とは何か」 でも詳しく解説しています
経営理念と原体験は、まったく別のもの
そもそも、「経営理念」と「原体験」は、役割がまったく異なります。 にもかかわらず、多くの組織では、この二つが無意識のうちに混同されています。
経営理念やパーパスは、いわば目的地です。 「私たちはどこへ向かうのか」「どんな価値を提供するのか」という、組織としての約束事。 車で言えば、カーナビや地図のような存在です。
一方で、原体験はまったく別のものです。 それは目的地ではなく、なぜそこへ向かわずにはいられないのかという動力そのもの。 つまり、エンジンです。
なぜ、その市場にこだわるのか。 なぜ、そこまで品質を譲らないのか。 なぜ、判断が異様に早い(あるいは遅い)のか。
その理由は、理念やパーパスの文章の中には書かれていないことがほとんどです。 社長自身も、うまく言葉にしていない場合が多い。 それでも、原体験は確実に燃え続け、意思決定の奥でエンジン音を響かせています。
問題は、その音が現場には聞こえていないことです。
現場が感じる違和感の正体
現場の社員が見ているのは、突然の判断や、強い言葉、変わらない基準だけ。 エンジンの存在を知らないまま、「もっとスピードを出せ」と言われれば、戸惑いや違和感が生まれるのは当然です。
「なぜ、そんなに急ぐんですか?」 「なぜ、そこまで厳しいんですか?」
この問いに対して、社長はつい「理念に書いてあるだろう」と答えてしまう。 しかし、実際に社長を突き動かしているのは、理念という整った文章ではありません。
「あのとき、本当に悔しかった」 「二度と、あんな状況には戻りたくない」 「守れなかったものがある」
そうした、言語化されていない原体験が、ガソリンとなって燃えている。 理念はハンドルであり、地図ではありますが、走らせているのはエンジンです。
原体験は、美しい話として語るものではありません。 エネルギーだからこそ、扱い方を間違えると、組織を前に進めるどころか、現場を疲弊させてしまうこともあります。
必要なのは「翻訳」という作業
多くの企業では、このエンジン――経営者の原体験が、社長一人の胸の内にしまわれたままになっています。 あるいは、飲み会の席での「昔は大変だったんだよ」という思い出話として、消費されてしまう。
それは、あまりにももったいないことです。
原体験は、過去を美化するための素材ではありません。 今この瞬間の意思決定や、品質へのこだわり、採用基準の奥底で、現役で稼働している判断装置です。
どの仕事を断るのか。 どの顧客を優先するのか。 なぜ、ここだけは譲らないのか。
その判断の根拠は、マニュアルや理念集ではなく、「もう二度と、あんな思いはしたくない」「あのとき守れなかったものがある」という、個人的で、切実な記憶であることが少なくありません。
だからこそ必要なのが、翻訳です。
「悔しかった」という感情を、「だから、この工程では絶対に妥協しない」というルールへ。
「守りたかった」という想いを、「だから、この顧客を最優先する」という戦略へ。
原体験を、そのまま感情としてぶつけるのではなく、組織の誰もが使える判断基準に書き換えること。 それができて初めて、社員は社長の顔色ではなく、共通のエンジン音を聞いて走れるようになります。
エンジンを、組織の動力源に変える
私は、この翻訳を担うためにいます。 社長の頭の中にあるエンジンを、社員が迷わずアクセルを踏める設計図へと落とし込むために。
あなたの会社のエンジンは、今、どこにありますか。 もし、壁に貼られた理念の裏側で、社長だけがその音を聞いているのだとしたら。
その音を、組織を動かす力に変えるお手伝いをさせてください。 それは、過去を懐かしむ作業ではありません。 未来へ走るための、最強の動力源を実装する仕事です。
原体験を組織の動力に変えませんか?
社長の想いが現場に伝わっていない、判断の背景が共有されていない。 そのような状況から、原体験を組織が理解できる構造へと翻訳いたします。
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